昨今、○階級制覇という話題をよく耳にしますが、複数階級を制覇することはどのようにすごい事なのか、いまいちピンとこない方もいるかもしれません。
そこで、今回はボクサーが階級を(上の階級に)変更することの大変さを解説します。
なぜ階級を上げる必要があるのか
減量は成長と共に困難になる
一般的には、選手は日々の努力によって技術だけではなく肉体も成長し、筋肉量が増えてくると体重が落ちにくくなります。あまりに減量が困難になると、試合でのパフォーマンスに影響します。まして、世界を制覇するほどの選手の肉体は、相当筋肉が発達しています。選手の減量期のコンディションや試合でのパフォーマンスから、今後続けていくことが困難であると階級を上げる必要が生じます。
軽量級では一つ上の階級との体重差が1.3㎏~1.9㎏くらいあるのですが、選手からすると減量の最終段階には、この2㎏に満たない体重を落とすことも相当困難になります。まさに命を削るような思いで落とします。この最後の1.数㎏を緩和できることは体力的には相当楽になると思われます。
階級を上げるリスク
相対的に身長とパワーが下がる
ボクシングでは、一般的に身長が高く、体重が重い方が有利とされているため、階級を上げると相対的に身長とパワーが下がります。そもそも減量することの大きな理由は身体的に有利にするためだからです。
相対的にパワーが下がるということは、いままで通用していたものが通用しなくなるということが起きてきます。例えばパンチを打つことで、
- 倒せていたタイミングなのに倒れない
- 下げさせていたのに、下がらない
- 萎縮させていたのに堂々と向かってこられる(打ち返される)
といったことが起こる可能性があります。そうなると、「あれ、当たったのになんで倒れないの?」といった混乱からペースが狂ったり、スタミナの消耗が激しくなったりします。
受けるダメージが大きくなる
また、相対的に相手のパワーが上がるので、受けるダメージも大きくなります。また、相手のパンチをガードした時に衝撃が大きくなるとバランスを保ったり、打ち返すことがより困難になります。
まさに階級を上げることは未知なる挑戦なのです。
ちなみに、バンタム級で10度世界チャンピオンを防衛した元チャンピオンの長谷川穂積さんは、2階級上のフェザー級に転向後、バンタム級でKOの山を築いた得意の右フックのカウンターが何度ヒットしてもなかなか倒すことが出来なくなりました。
また、デビューから15連続KO記録を打ち立てた比嘉大吾選手は、16戦目で体重超過をしてしまい、その後2階級上のバンタム級へ転向後8戦中KOが4勝とKO率が半分に下がりました。
階級を上げるメリット
減量による体力低下が緩和される
減量の苦労が緩和されるため、体力やスタミナの消耗が以前よりも温存できたり、練習の質が向上します。
スピードでは有利
より軽量の階級で闘ってきたボクサーはスピードでは有利と考えられます。パワーが相対的に落ちる分、スピードでカバーできるかが勝利へのカギとなることもあります。
階級の変更はフルモデルチェンジのようなもの
ボクサーにとって階級を上げることは、マシンにに例えるとフルモデルチェンジと言っても過言ではありません。
先述の通り、いままで通用していたものが通用しなくなることを想定すると、根本から戦術を見直さなければならなくなります。特にジャブが以前より通用しなくなると、試合の組み立てが元から崩れてしまいます。筋トレの量を増やしてパワーを補うとか、スピードと手数を重視するスタイルに変更するかなど、選手の創意工夫が試されます。
階級変更した最初の試合は選手のスタイルの変化にも注目です!
多階級制覇した名チャンピオン
複数階級制覇した歴代チャンピオンでまず名を挙げるとすれば「マニー・パッキャオ選手」ではないでしょうか。彼はフライ級(WBC)、スーパーバンタム級(IBF)、スーパーフェザー級(WBC)、ライト(WBC)、ウェルター級(WBA)、スーパーウェルター級(WBC)でチャンピオンとなり6階級制覇を成し遂げています。さらに注目すべきは「飛び級」して階級を上げていて、フライ級からスーパーウェルター級までの階級は10階級もあり、体重ではなんと19㎏もの開きがあります!まさに前人未到の記録であり、今後塗り替えることができる選手が現れるのか、想像がつきません。
日本人でも複数階級制覇している選手は増えています。中でも、井上尚弥選手や井岡一翔選手、田中恒成選手は4階級制覇の偉業を成し遂げています。今後さらなる上の階級を制覇することが期待されます。
今や階級をまたいで闘う選手が増えていき、見る側が階級の壁も昔ほど感じられなくなっているかもしれません。でも実際は相当なチャレンジをしているということを知っていただけたら、もっと選手の創意工夫を感じられて、面白くなるのではないでしょうか。
ではまた、ボクシングの様々なことを解説できたらと思います!